固形物に手をつける

相変わらず、口を真一文字に固く結んで、緊張感を漂わせて帰路についた。

麻酔のせいでじんじん痺れる唇と変なそわそわ感と倦怠感で、普通じゃない。

左側は沢山の麻酔を打ったので、後1時間は麻酔は効いたままだよ。と先生に言われていた。


血の味がしていて、明るいお天気にも気が滅入りそう。コンビニではレジのお姉さんに一言も発せず会釈だけで去ってきた。口から血を流して驚かせてはいけないもんね。


なんとなくズキズキしているような気がするようなしないような。家に帰って、うがいをしようとして、シンクが血まみれ。口が血まみれ。鏡を覗くと、溢れる血。


抗生剤と痛み止めを飲むべく、とりあえずプリンを食べる。濃厚ミルクプリン。薬を飲む。気を紛らわせようと、蛇拳を観る。


間髪入れずに豆腐を食べる。豆腐はあんまり好きではない。迷った末に、歯磨き粉をつけずに歯ブラシをする。もらってきた滅菌ガーゼを噛みしめる。みるみる真っ赤に染まるガーゼ。2セットしかもらっていないのだがなぁ。と思いつつ、蛇拳を見守る。


蛇拳は滅びる!って言って襲ってくる顔色の悪いメイクをしたおじさんが襟元に扇子を突き刺しているのが気になって仕方ない。他になかったんか。それともあれは正解なのか。


2回目のガーゼを噛みしめるが、左側の血が止まりそうもない。ガーゼの白い部分が見えなくなったので、一旦外した。

ここでも私は知らん間に寝てしまっていた。疲れたんだよ。鉗子に怯えていたから。


目が覚めた時には特に枕は血まみれにはなっていなかったが、まだ左側の血は流れ出ていた。アイスクリームを食べる。血はそのうち止まるだろう。

緑茶を飲む。クタクタにしようとしてできなかったうどんをのろのろ食べる。


抗生剤を飲む。血はもう止まったようだ。抜歯初日にうどんを食べてしまったが、初日は流動食とか離乳食みたいなものを食べておけばよいのではないかと今にして思う。


痛みはないが、痛みがあるような気がして、何度も鏡で血餅を確認した。強迫観念。気を紛らわそうと、酔拳も観ておいた。


翌日もおかゆにうどんにふやかしたパンなど、それなりの固形物のようなものを食べて過ごした。左右の4番なので、気持ち奥歯で噛むようにした。ブラケットの具合で左側でしか噛めないのだが、抜歯後の経過は個人的に不満だった。

でも、固形物っぽいものが食べたいのだ。アイスは美味しい。唇の荒れは治りそうにない。


歯を抜くと眠くなるのか、緊張から疲れてしまい、眠くなるのか。あぁ、歯がなくなったのだなと、しみじみ思った。